【SNS】の誹謗中傷に対する対処法は?

2020.11.11

ネット中傷解決くん編集部が、相談のネット中傷トラブルの問題になりやすい事例を作成し、ネット中傷問題に詳しい弁護士に対処方法のインタビューを行い、記事にまとめました。

<教えてくれる人>
清水陽平先生(法律事務所アルシエン)

 

【事例】

東京都在住の山田陽子さん(32歳)は、都内のスーパーマーケット「青葉マート」でレジ打ちのパートを始めました。研修中でまだ作業に慣れない中、一生懸命業務に当たっていましたが、客としてやってきた50代の女性に「レジ打ちが遅い」「このご時世に、お釣りを手渡しするなんて失礼」と様々なクレームを入れられました。

最初は我慢していた山田さんでしたが、あまりにクレームが長かったため、つい小さく舌打ちをしてしまい、それを聞いた女性は激昂。山田さんは平謝りをしましたが客の怒りは収まらず、店長の木村浩二さん(45歳)が対応しても怒りがエスカレートするばかり。しまいには「土下座をしろ」と言い出し、山田さんと木村さんが土下座した様子をビデオに録り始めました。

すると同日の夜、山田さんは友人より「あなたがTwitterで攻撃されている」と連絡を受けました(山田さんはTwitterを利用したことがありません)。「mikaチャン.*☆」というアカウントが「青葉マートのパートの山田陽子(32)と店長の木村浩二(45)、客に対して最悪の対応。土下座させた」と画像を添えて投稿。その後も「青葉マートのパートの山田陽子と店長の木村浩二は不倫している」「山田陽子の子供は東小学校2年生。盗癖があっていつもいじめられている」など事実無根の投稿を次々と投稿し、山田さんとその家族は、周囲から冷たい目で見られるようになりました。

山田さんは、なんとかして「mikaチャン.*☆」の身元を特定し、投稿を削除させたうえで、事実無根の投稿に対する法的措置がとれないかと考えています。

 

【対処方法】


対応のポイントとなるのは?


はじめに、山田陽子さんが上記の事例に対応する際、どのような点がポイントになるかを見てみましょう。

山田さんが目的としているのは、①投稿の削除、②投稿者の特定、③投稿者への損害賠償請求の3点。このうち、他者の投稿に対する「削除依頼」と、投稿者を特定するための「発信者情報開示請求」については、依頼者の権利が侵害されていることが必要になります。このケースの場合、山田さんは不倫をしているという事実無根の内容が書かれているため名誉権を侵害されていると考えることができ、削除依頼、発信者情報開示請求ともに行うことができます。

また、名誉毀損罪にあたる余地もあり、刑事事件として告訴する余地もあります。

Twitterの投稿を削除する


誹謗中傷に関連する投稿の削除依頼を行うとともに、「mikaチャン.*☆」というアカウントの持ち主を特定するためには、まずアメリカのカリフォルニア州に本社を置くTwitter Inc.に対してアクションを起こす必要があります(日本法人は日本でのプロモーション活動を行う目的で設置されており、投稿に関する管理権がないため法的対応ができません)。

なお、削除依頼、発信者情報開示請求を行う際のおおまかな流れは、次の通りです。

 

<削除請求>


①お住まいの都道府県の地方裁判所に、Twitter Inc.に対する「仮処分」という裁判手続の申立てを行います。

②申立て内容が一応認める余地があるとなれば、Twitter Inc.を呼び出して審理を行うことになります。この際、Twitter Inc.からの反論も踏まえても、削除が相当であると裁判所が判断すれば、「仮処分決定」が発令されることになります。仮処分決定が発令されれば、Twitter Inc.が「mikaチャン.*☆」の投稿の中から、誹謗中傷に関する投稿を削除してくれます。 

<発信者情報開示請求>


①東京地方裁判所に、Twitter Inc.に対する発信者情報の開示を求める「仮処分」という裁判手続の申立てを行い、投稿者のIPアドレスとタイムスタンプ(サーバ接続時間)の開示請求を行います。

②申立て内容が一応認める余地があるとなれば、Twitter Inc.を呼び出して審理を行うことになります。この際、Twitter Inc.からの反論も踏まえても、削除が相当であると裁判所が判断すれば、「仮処分決定」が発令されることになります。仮処分決定が発令されれば、2〜3週間程度でTwitter Inc.から「mikaチャン.*☆」のIPアドレスとタイムスタンプが開示されます。

この事例では、山田さんのお住まいが東京都であるため、情報開示請求、削除依頼ともに東京地裁に申し立てることができました。しかし、東京以外の道府県にお住まいの方の場合は、削除依頼は在住する道府県の地方裁判所に申し立てを行い、開示請求は東京地方裁判所に申し立てを行うことが必要になるため、ご注意ください。

 

投稿者の個人情報を手に入れる


IPアドレスが開示されると、インターネットサービスプロバイダ(インターネットに接続するためのサービスを提供する会社)が特定できるので、該当するインターネットサービスプロバイダに対して「mikaチャン.*☆」の情報開示請求を行います。

ただし残念ながら、通信から特定される情報は通信の秘密に該当する情報であり、安易に開示すると犯罪行為になってしまうため、発信者の同意がある場合を除き、インターネットサービスプロバイダが任意に開示に応じることはほぼありません。そのため、多くの場合は裁判所を通じて発信者情報開示請求訴訟を行い、裁判所からの命令という形で情報開示に対応してもらうことになります。

裁判にかかる日程は内容によってまちまちですが、こちらの訴えから裁判に入るまでに約2ヵ月、判決が出るまでに約5ヵ月かかると想定していただければと思います。

 

法的措置によって問題の解決を目指す


投稿者が特定できた後は、法的措置によって問題の解決を目指します。責任追及の方法は、大きくわけて2つあります。民事責任の追及と刑事責任の追及です。この事例における名誉毀損は民事責任と刑事責任の両方から追求することが可能なので、それぞれの手続きや賠償額などについて解説していきましょう。

 

<民事責任の追及>


民事での名誉毀損は、民法で規定された「他人の権利や利益などを侵害する行為」に適用され、損害賠償を請求することができます。

損害賠償を請求する方法としては、内容証明郵便などによる裁判外の手続きと、損害賠償訴訟という裁判上の手続きがありますが、加害者が損害賠償の支払いに素直に応じるなら示談、応じない場合は裁判を通じて請求するというのが一般的な流れです。なお、裁判を起こした場合は、判決までに3ヵ月から半年ほどの時間がかかると考えておいてください。

請求額はこちらで自由に決めることができますが、相手の支払い能力なども考慮されるため、慰謝料が3〜60万円、調査費用と弁護士費用を合わせて、だいたい60〜100万円弱に落ち着くことが多いです。

<刑事責任の追及>


この事例を刑法に照らし合わせると、刑法第230条1項に規定された「故意に公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」にあたります。

この場合は、警察や検察に告訴状、被害届などを提出することになりますが、告訴状を持って警察署に行ってもすぐに対応してもらえないなど、時間と手間がかかる作業になるため、手続きについては弁護士に依頼することをおすすめします。

もしご自身で対応したいという際は、お住まいの地域を管轄する警察署の刑事課に電話して、「ネットで中傷を受けている。相手の特定はできている」と伝えてください。刑事課の担当者につながり、対応してくれます。

どのくらいのスピードで手続きが進むかについては、警察署の忙しさなどによってまちまちですが、ファーストコンタクトから実際の捜査が始まるまでに、相当のタイムラグが生じることも事実。事件性の有無を慎重に調べる必要があることから、数ヵ月から1年単位で待たされることも少なくはありません。

捜査の末、「mikaチャン.*☆」が起訴される場合、名誉毀損罪の法定刑は3年以下の懲役、もしくは禁錮または50万円以下の罰金刑となっていますが、初犯の場合は起訴猶予になることが多く、起訴されるとしても略式起訴(=罰金刑)になる可能性が高いでしょう。

 

かかる費用はどれくらいになるのか?


ここまでで紹介したことのすべてを弁護士に依頼した場合、総額でかかる費用は100万円強になると想定されます。

内訳を紹介すると、まずTwitterとプロバイダに対する開示請求がそれぞれ35〜40万円。Twitterの場合、海外であるためどうしても費用が高額になってしまいますが(FacebookやInstagram、Googleも同様です)、国内企業が運営するサイトやサービスであれば、もう少し費用を抑えることはできます。これに加えて、損害賠償請求や刑事告訴にかかる手続き費用は、着手金だけで各20万円ほどかかります。

ただし、弁護士によって値段設定は異なるので、ここで紹介した数字はあくまで参考程度にとどめていただければと思います。

 

ネット中傷解決くん」で弁護士を探す。

 

〈取材を終えて〉
このように、ネット中傷に関わる実際の手続きには時間もお金もかかりますが、だからといって深刻な状況をそのままにしておくわけにもいきません。弁護士事務所の中には無料相談を実施しているところもたくさんありますので、「なにはともあれ相談」からはじめてみるのもいいのではないでしょうか。

——-
Profile
清水陽平(しみず・ようへい)
2007 年弁護士登録、2010 月11 月法律事務所アルシエンを開設。インターネットにおける誹謗中傷や炎上への対応を得意分野としており、ツイッターとフェイスブックに対し、それぞれ日本初となる事案を担当した。総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっており、著書に「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル(弘文堂)」などがある。