ネット上に悪質な書き込みを行った人物を特定したい!

2021.02.08

インターネット上では、「匿名」で情報が公開されることも多いため、ネガティブな書き込みをされたときに、「発信者(書き込みをしている人物)がどこの誰なのか?」を知るのはとても困難です。しかし、だからといって発信者が特定できないままになれば、誹謗中傷を受けた被害者が、その責任を追求することができなくなってしまいます。

そのため、プロバイダ責任制限法では「発信者情報開示請求」という権利を定め、誹謗中傷の被害者に対して、加害者である発信者の特定を可能とする手段を規定しています。ここでは、発信者情報開示請求を行うための要件や方法、流れなどについて説明していきましょう。

 

発信者情報開示請求とは?


先に、「匿名」で発信された情報は、発信者を特定するのが難しいと書きましたが、それはユーザーの側から見た場合の話。サイト管理者やアクセスプロバイダ(インターネットへの接続サービスを提供している会社)の側には、発信者につながる情報が保管されています。そして、その情報を開示してもらえれば、発信者が誰なのかを特定できる可能性があります。このように、サイト管理者やアクセスプロバイダに対して、発信者情報の開示を請求することを「発信者情報開示請求」と呼び、その権利はプロバイダ責任制限法4条1項に規定されています。

なお、発信者情報開示請求は、発信者を特定する手続きであり、書き込みを削除するものではありません。「ネガティブな書き込みを削除したい」という場合は、別途「削除依頼」という手続きが必要になります。


削除依頼に関する記事はこちらから

 

発信者情報開示請求できるのは、どのような書き込み?


発信者情報開示請求の対象となるのは、権利侵害が明らかな場合です。下に、「権利侵害が明らかであると認められる場合」の一例を示しておくので、参考にしてください。

 

権利 権利侵害が明らかであると認められる例
名誉権 社会的な信用・評価を下げるような書き込みがなされ、なおかつ、その書き込みが下記の3つを疑わせる事情がないこと。

①公共の利害に関する事実に関わること
②もっぱら公益を図る目的であること
③書き込まれた事実が真実であること

プライバシー権 個人情報や私生活の情報を暴露する書き込みがなされ、なおかつ、その書き込みが下記の2つを疑わせる事情がないこと。

①私生活上の事実であること
②公開を正当化される事情がないこと

※なお、会社などの法人には、プライバシー権が認められないのが一般的です。

肖像権 撮影や公開を許可していない写真や動画が公開され、なおかつ、その公開が下記の2つを疑わせる事情がないこと。

①私生活上の事実であること
②公開を正当化される事情がないこと

発信者情報開示請求の手続きの流れは?


発信者情報開示請求の手続きをする際は、少なくとも、1.サイト管理者への情報開示請求、 2.アクセスプロバイダへの情報開示請求という2段階の手順を踏むことになります。

「最初からアクセスプロバイダに情報開示請求をしたほうが、話が早いのではないか?」と思われるかもしれませんが、インターネットの仕組み上、これは難しいといわざるをえません。たとえば、ある掲示板に誹謗中傷が書かれた場合、掲示板に書き込みをした人物(発信者)は、発信者が契約しているアクセスプロバイダに接続し、次に、掲示板が契約しているプロバイダに接続することで、掲示板への書き込みが可能となります。

アクセスプロバイダは通常、契約者の氏名や住所を把握していますが、掲示板に書き込んだ発信者がどのアクセスプロバイダと契約しているかは、ほかのユーザーにはわかりません。したがって、まずは掲示板のサイト管理者に対して発信者の情報(IPアドレスなど)を開示してもらう必要があります。結果として、まずはサイト管理者への情報開示請求、次にアクセスプロバイダへの情報開示請求という手順が必要となるのです。

 

  1. サイト管理者に対して発信者情報開示請求を行う

前述の通り、最初に書き込みがあったサイトの管理者に、発信者の情報を開示してもらいます。ただし、サイト管理者が持っているのは、サーバにアクセスされた履歴やサイトを利用する際に登録したメールアドレス、パスワードだけなので、ここではサーバにアクセスされた履歴、つまりIPアドレスやタイムスタンプ(データを作成、更新した日時を証明するもの)などの情報の開示を求めることになります。

情報開示の請求方法には、裁判を使わない方法と裁判を使う方法があり、裁判を使わない方法では、一般的にテレコムサービス協会の「発信者情報開示請求書」という書式が使われます。この場合、書類をサイト管理者に送ることで開示請求がスタートします。

発信者情報開示請求書を受け取ったサイト管理者は、発信者に発信者情報開示請求書が届いたことを連絡し、開示に同意するか否かを2週間以内に聞き取らなくてはなりません。そして、発信者が同意すれば情報を開示、同意しなければ情報を開示しないとなります。

一方、裁判を使う方法では、仮処分という手続きを使います。仮処分というのは裁判の一種ですが、通常の裁判よりも迅速な手続きで行われ、裁判所が申し立てにおおむね間違いがないと判断した場合は、一定額の担保金を供託することを条件に申し立てが認められます(担保金が用意できなければ、決定が発令されることはなく、供託した担保金は一定の手続きを行うことで返還されます)。

通常の裁判の場合、数カ月から1年以上の時間がかかるケースが多いのですが、この手続きでは、一応こちらの主張が確からしいとなれば申立てが認められるので、1〜2カ月で結論が出るのが特徴です。

仮処分申立書を受け取ったサイト管理者は、発信者情報開示請求書と同様に、発信者に連絡を取り、開示に同意するか否かを2週間以内に聞き取らなくてはなりません。そして、発信者が同意すれば情報を開示、同意しなければ情報を開示しないとなります。しかしながら、裁判所から「仮に開示せよ」という仮処分決定が出れば、発信者の同意が得られなくても、多くのサイト管理者は開示に応じてくれます。

なお、発信者情報開示請求仮処分は、原則としてサイト管理者の所在地を管轄する地方裁判所のみが管轄裁判所となります。ただし、Twitter、Facebook、Googleなどに対して発信者情報開示請求を行う場合、相手方となるのは海外法人であるため(日本法人は日本におけるプロモーションを行っているだけで、サービスの提供主体は海外法人だからです)、最高裁判所規則により東京地方裁判所が管轄裁判所となります。

仮処分の申し立てが認められるには、次の2つの要件を満たす必要があります。

①インターネットの誹謗中傷によって、人格権(名誉権やプライバシー権など)や著作権に基づく権利侵害が明らかであること

②権利侵害が明らかであり、すぐにでも保全しないと権利の回復ができない状況にあること(すぐに消去させないと拡散の可能性があるなど)

 

  1. アクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求を行う

サイト管理者からIPアドレスなどの情報開示を受けると、アクセスプロバイダが特定できるため、次はアクセスプロバイダに対して情報の開示を求めます。アクセスプロバイダには、IPアドレスと結びついた契約者情報が保管されているため、ここで情報が開示されれば、匿名だった発信者の身元が明らかになるわけです。

ただし、アクセスプロバイダによっては、発信者情報開示請求の審議状況に関係なく、一定期間が経過するとログ(データ通信の履歴や情報の記録)を削除してしまうところもあります。そのため、この段階ではアクセスプロバイダに審議の結果が出るまでログを保存しておくように請求する必要があります。なお、アクセスプロバイダがログを保存している期間は、おおむね3~6カ月程度と考えてください。

ログの保存請求に関しては、多くのアクセスプロバイダが裁判を経なくても応じてくれるため、アクセスプロバイダに保存してもらいたい情報を指定し、そのログを保存するよう依頼するという流れが一般的です。書類の書式は任意でかまいません。

ログの保存ができた後は、発信者の情報開示請求を行います。情報開示請求の方法は、サイト管理者への開示請求と同様、裁判を使わない方法と裁判を使う方法があり、裁判を使わない方法では、テレコムサービス協会の「発信者情報開示請求書」を用います。ただし、発信者に関する情報は個人情報にあたり、また通信の秘密に関するものでもあるため、この書式で請求しても、アクセスプロバイダが情報の開示に応じることはまずありません。そのため、アクセスプロバイダにプロバイダ契約者の情報を開示してもらう場合は、裁判所に発信者情報開示請求訴訟を行うケースがほとんどです。

ちなみに、アクセスプロバイダに対する開示請求が、仮処分ではなく通常の訴訟になるのは、ログ保全により投稿者の情報保全ができる以上、急いで開示を認める必要がないとみなされるからです。なお、この裁判の管轄は、原則としてアクセスプロバイダの所在地を管轄する地方裁判所のみとなります。

以上が、発信者情報開示請求のおおまかな流れとなりますが、下にここまでをまとめた図も掲載しておきますので、ぜひ参考にしてください。

 

発信者情報開示請求に必要なものは?


発信者情報開示請求をする場合は、どこにどのような書き込みがあるのかを示す必要があります。そのためには、問題の書き込みがされているサイトの保存が不可欠。もし、書き込みが消されてしまうと、内容の確認ができなくなるため開示請求が認められなくなってしまうからです。次の2点に注意しながら、証拠を保存しておくようにしましょう。

 

①問題のサイトのURLがスクリーンショット(キャプチャ)画像などから明確にわかること

②問題の書き込みがスクリーンショット(キャプチャ)画像などからきちんと確認できること

 

保存の方法は、PCで印刷するほか、スクリーンショット(キャプチャ)でも問題ありません。スクリーンショットの場合は、Windowsのパソコンであれば、Alt+PrtScr(Print Screenと表示されていることもあります)。Macであれば、Command+Shift+3で保存できるので、いずれの場合もURLが明確に表示されているようにしてください。スマートフォンにもスクリーンショット機能があるものが多いですが、スマートフォンのスクリーンショットではURLがうまく表示されない場合もあるので、注意しましょう。

 

発信者情報開示請求は自分でやれる?


発信者情報の開示請求を自分で行うことは可能です。ただ前述した通り、アクセスプロバイダが任意で情報を開示してくれることはほとんどなく、開示請求には裁判での対応が必要になります(サイト管理者が任意の開示請求に応じないこともよくあります)。また、アクセスプロバイダが保管しているログの保存期間は3~6カ月程度であるため、書き込みから時間が経ちすぎると、特定が難しくなってしまいます。

以上のことから、法律の専門知識がある弁護士に依頼して、できるだけスピーディに進めるのが得策でしょう。

 

発信者情報開示請求訴訟には、どのくらいの期間と費用がかかる?


裁判所に訴状を提出すると、訴状審査というものが行われますが、通常はこれに3〜7日かかります。訴状審査を通ると、被告(発信者)に対して訴状の送達が行われ、その時点から約1カ月後に第一回目の裁判が開かれます。その後は約1カ月ごとに裁判が開かれ、合計2〜3回行われるケースが一般的です。

費用は、弁護士によって、また量や対象によっても変わってくるためあくまで目安となりますが、25万〜40万円とお考えください。

 

発信者を特定できた後の法的手段は?


書き込みを行った人物を特定するのは「責任を追求するため」なので(中には、特定自体を目的とするケースもありますが)、発信者情報の開示を受けた後は、法的措置によって問題の解決を目指していきます。責任追及の方法は、大きくわけて2つ。民事責任の追及と刑事責任の追及です。

  1. 民事責任の追及

損害賠償(慰謝料)の請求などがこれにあたります。損害賠償を請求する方法としては、内容証明郵便などによる裁判外の手続きと、損害賠償訴訟という裁判上の手続きがあります。

内容証明郵便とは、誰が、誰宛に、いつ、どのような形で手紙を出したのかを、日本郵便株式会社が公的に証明してくれる郵便のことで、記録が明確に残るため、何かを請求する際によく使われます。ただし、それ自体に強制力はなく、送っても無視される可能性があります。

請求を無視された場合は、相手方に対して、名誉毀損、プライバシー侵害などによる損害賠償請求訴訟を提起することになりますが、内容証明郵便は使わず、はじめから訴訟提起をしても問題ありません。訴訟を提起した後は、加害者が損害賠償の支払いに素直に応じれば示談、応じない場合は裁判を通じての請求になるでしょう。

賠償額は、おおむね100万円が上限という印象です。なお、相手の特定にかかった費用には、全額とは限らないものの相手の負担にできる場合も。たとえば、弁護士に依頼して発信者情報開示請求を行った場合、その弁護士費用が損害として認められます。とはいえ、相手が裁判で反論してくるケースもあれば、相手の金銭的な事情で払われないこともありますので、「必ず賠償してもらえるわけではない」ということも覚えておいてください。

  1. 刑事責任の追及

書き込んだ人物に刑事罰を与えるため、名誉毀損罪などで立件してもらうことを指します。刑事責任を追及するのは国の仕事であるため、この場合は警察や検察に告訴状、被害届などを提出することになります。

刑事告訴をした場合、警察が自宅の捜索や取り調べといった捜査を行い、検察が起訴するかどうかを判断しますが、前科前歴がない限りは、よくて略式起訴、多くのケースでは起訴猶予(犯罪が成立しているだろうといえるものの諸般の事情を考慮して起訴をしないという判断)となることが多いでしょう。とはいえ、あくまで起訴が「猶予されているだけ」なので、同じ過ちを犯さないための抑止力にはなるはずです。

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Profile
清水陽平
法律事務所アルシエン代表
2007 年弁護士登録、2010 月11 月法律事務所アルシエンを開設。ネット中傷の削除、投稿者の特定、ネット炎上に関する案件の取扱いが多く、同分野の弁護士向け講師として招かれることも。総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっており、著書に「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル」などがある。