クチコミ」タグアーカイブ

2020.11.13

ネット中傷解決くん編集部が、相談のネット中傷トラブルの問題になりやすい事例を作成し、ネット中傷問題に詳しい弁護士に対処方法のインタビューを行い、記事にまとめました。

<教えてくれる人>
神田知宏弁護士(小笠原六川国際総合法律事務所)

【事例】

伊藤太郎さん(仮名・53歳)が院長を務める東京都内のAクリニックでは、2020年3月頃から外来の患者数が大きく落ち込んでいました。当初は新型コロナウイルスの感染拡大の影響かと思われましたが、緊急事態宣言が解除されて街に人出が戻るようになって以降、数ヶ月が経っても患者数が戻る様子はありません。

そんなある日、クリニックで働く看護師から、「GoogleでAクリニックを検索すると酷い書き込みが表示される」と指摘がありました。早速、伊藤院長がGoogleのクチコミを確認してみると…、クリニックでは万全を期していたコロナ対策については「対策がおざなりでウイルスが蔓延している」「看護師がマスクもしていない」、さらには「やってもいない検査の代金を請求された」「Aクリニックはぼったくりだ」などと、まったくのデマが書き込まれていたのです。

来院者数が激減していた背景には、コロナの影響に加え、こうした誹謗中傷の書き込みの影響があるに違いない。そう考えた伊藤院長は、GoogleでAクリニックを検索すると表示される「Googleのクチコミ」に投稿された誹謗中傷をどうにかして削除できないか、そして今後のクリニック経営のためにも、誰がどのような目的でこのような投稿をしているのかを突き止めたいと考えています。

 

【対処方法】
■対応のポイントとなるのは?

今回のケースで問題となっているのは、Googleで店舗や施設などを検索すると、検索結果とともに5つ星の評価が表示されるユーザーレビューのこと。店名などの下部に「Googleのクチコミ」と表示される文字をクリックすると、その店舗や施設などに関する口コミが表示されます。

「Googleのクチコミ」に誹謗中傷が書き込まれることは、看板に落書きをされるようなものです。評価を貶めるような不当な書き込みに悩まれるケースは特にクリニック経営者の方に多く、実際、私のもとには全国のクリニックから多くの相談が寄せられています。

今回、伊藤院長が目的としているのは、①Googleのクチコミ(誹謗中傷に該当する書き込み)の削除、②投稿者の特定の2点です。

このうち①のクチコミの削除については、Googleのオンラインフォームから削除リクエストをすることが可能ですが、リクエストをしたからといってすべてのクチコミが削除されるわけではありません。その場合は、裁判所の「削除仮処分」手続きによる削除請求という方法が有効になります。対して②の投稿者の特定についてはGoogleのフォームから請求する方法はなく、発信者情報開示請求という方法を取ります。

削除請求も発信者情報開示請求も、多くのケースでは事実無根の書き込みによる名誉権の侵害が争点となり、申立人はプロバイダや裁判所に対し、「いかにその書き込みが事実無根であり、かつ申立人の名誉を既存するものであるか」を立証できるかがポイントとなります。

 

■Googleのオンラインフォームからの削除リクエスト

費用も掛からずご自身でできるため、まずはオンラインフォームからの削除リクエストを試してください。以下、その方法を簡単に説明します。

 

まず、クチコミ上部の「★★★★★ ○日前」という表示にマウスポインタを近づけ、その右側に表示される旗マーク「違反コンテンツを報告」(赤枠部分)をクリック。次に表示される「このクチコミの問題点」という画面で「法的問題」を選び、報告ボタンをクリックすると、「Googleからコンテンツを削除する」という画面が表示されます。ここでは「法的な問題」を選択して「リクエストを作成」ボタンをクリックすると、「法律に基づく削除に関する問題を報告する」というタイトルのフォームが表示されますので、必要項目を記入して報告を行います。

なお、「Googleマイビジネス」に登録していれば、Googleマイビジネスの管理画面からも削除請求が可能です。その場合は、まずご自身のアカウンでログインして「クチコミ」をクリック。表示されるクチコミの一覧から、対象となるクチコミを選び「不適切なクチコミとして報告」をクリックします。次に「このクチコミの問題点」という画面が表示されるので「法的問題」を選択。以下の流れは先ほど紹介した「オンラインフォームからの削除リクエスト」と同様です。

多くの相談者から体験談を聞く限り、Googleマイビジネスからの削除請求の方が格段に削除してもらえる可能性が高い印象があります。Gooleマイビジネスに登録されている場合は、ぜひそちらの管理画面からの申請を試してみてください。

 

■削除仮処分と発信者情報仮処分

<削除仮処分の手続き>

Googleのオンラインフォームからリクエストしてもクチコミが削除されない場合は、削除仮処分の手続きが必要になります。削除仮処分手続きでは、医療法人の場合は本店所在地を、個人の場合は住民票の住所を管轄する地方裁判所に申し立てを行います。

申立後は、申立人の言い分を裁判所が聞く債権者面談(1、2日)が行われた後、米国Google社を呼び出したうえで審理が行われます。1、2週間おきに双方が主張と反論を繰り返し、最終的に裁判官が削除相当と考えた場合は削除決定(削除の命令)が出され、一般的なケースではそこから約2、3週間でクチコミが削除されます。なお、Googleの場合は供託手続きがあるので、削除の場合は30万円(IPアドレス開示請求は10万円)を法務局に供託する必要があります。

仮にGoogle側がまったく争わない場合、申立から2ヶ月程度でクチコミは削除されますが、実際には多くのケースで法的な争いになるため、数か月程度の期間を見ておく必要があります。

 

<発信者情報開示仮処分の手続き>

各地方裁判所で申立を行う削除仮処分に対し、Googoleに対する発信者情報開示仮処分の手続きは東京地裁でしかできません。ここではクチコミの投稿に使用されたIPアドレスの開示を求めるための申立を行い、削除仮処分と同様の審理などを経たうえで、裁判官による決定がくだされます。

IPアドレスの開示仮処分についても、最短の場合は申立から2ヶ月程度で開示されます。その後は別途、投稿者が使用しているインターネット接続プロバイダに対して投稿者の開示請求を行い、投稿者の住所や氏名の開示を求めます。

 

■削除請求や発信者情報開示請求が認められるポイントは?

<書き込みが事実ではないことを立証する>
削除請求も発信者情報開示請求も、裁判所がその請求を認めるポイントについてはまったく同じです。今回の場合は、事実ではない書き込みによってクリニックの名誉が既存されているかどうか。対象となるクチコミが「事実とは異なる」という点を、裁判官に理解してもらうことが重要です。

そこで今回のAクリニックに対するクチコミを見ると、たとえば「対策がおざなり」というのは患者の感想表現と捉えられるため、事実ではないという主張は難しい部類です。一方で「看護師がマスクをしていない」というクチコミについては、院内のルールや購入したマスクの減り具合などから事実ではないことが立証できます。

また、実際にクリニックから相談されるケースが多いものが「ぼったくり」や「やってもいない検査や治療の代金を請求された」というクチコミです。とはいえ、保険診療を行うクリニックでは診療報酬は点数が決まっているため、不当な請求をすることはほぼ不可能です。裁判所でもこれらのケースはほぼ「削除相当」と判断してくれます。

 

<投稿者が偽物であることを立証する>
前述した通り、裁判官が「感想表現」と捉えてしまうとクチコミの削除は難しくなりますが、その場合は「クチコミを書き込んでいる人が患者を装った偽物」であることを証明できれば、削除相当の判断を得ることができます。たとえば、クチコミに書かれている内容を過去のカルテと照らし合わせ、該当する人がいなければ悪評を書き込んでいる患者の不存在は証明できる場合があります。

 

■法的責任の追求および慰謝料の相場

 今回のAクリニックの場合、伊藤院長の最優先事項はクチコミの削除であり、次に重要なのは投稿者を特定することでした。投稿者がもし実際の患者であれば、Aクリニックとしても患者対応などを改善するきっかけになるかもしれませんし、仮にたとえば同業者などからの嫌がらせであれば、それなりの対策を考える必要があるからです。

伊藤院長は投稿者への損害賠償請求までは求めませんでしたが、今回の件は民事での名誉毀損「他人の権利や利益などを侵害する行為」に該当し、損害賠償を請求することもできます。

損害賠償を請求する方法としては、内容証明郵便などによる裁判外の手続きと、損害賠償訴訟という裁判上の手続きがあります。また、加害者が損害賠償の支払いに素直に応じるなら示談、応じない場合は裁判を通じて請求するというのが一般的な流れです。なお、裁判を起こした場合は、判決までに1年以上かかることもあります。

請求額はこちらで自由に決めることができます。しかし、たとえば今回のようなケースでクリニック側が「数千万円も売上が下がった」と主張しても、それがクチコミのせいなのかコロナのせいなのかという因果関係は立証できません。加えて、相手の支払い能力なども考慮され、慰謝料が30〜50万円、これに調査費用や弁護士費用を加算した金額に落ち着きます。

 

■かかる費用はどれくらいになるのか?

今回のようなケースで弁護士に依頼した場合、削除請求のみの場合では30万円〜、開示請求と合わせて行う場合は50万円〜の費用が総額でかかると想定されます。

着手金や成功報酬の設定は法律事務所や弁護士によって異なりますが、それ以外にも弁護士の旅費や日当、さらに今回のケースでは、申立書一式の翻訳費用や、手持ちの在庫がない場合は米国Google社に関する資格証明書(登記)を取り寄せる費用なども必要になります。

特に翻訳や登記の取り寄せなどについては、この種の案件に慣れているかどうかで対応のスピードやコストが変わってきます。「少しでも早く不当な口コミを削除したい」とお考えの場合は、同じような事案の経験が豊富な弁護士への依頼をおすすめします。

ネット中傷解決くん」で弁護士を探してみる?

〈取材を終えて〉
Googleのクチコミに限らず、ウェブのクチコミに悩み出すとどんどん出口がなくなってしまいます。弁護士に相談して、どのような解決策があるかを聞くだけでもきっと気持ちは楽になるはず。決して一人で悩まずに、まずは気軽に弁護士に相談してみることが解決につながるかも知れません。

——-
Profile
取材協力
神田知宏(かんだ・ともひろ)
プログラマ、ITベンチャー起業を経て弁護士に転身。2007年弁護士登録、同年9月小笠原六川国際総合法律事務所に入所。同年10月弁理士登録。インターネット関連紛争を主な取り扱い案件とし、2014年の米Google社に検索結果の削除義務を認めた日本初の裁判では債権者側の代理人弁護士を務めた。「ネット検索が怖い「忘れられる権利」の現状と活用」(ポプラ新書)他、著書多数。