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2021.02.08

インターネット上では、「匿名」で情報が公開されることも多いため、ネガティブな書き込みをされたときに、「発信者(書き込みをしている人物)がどこの誰なのか?」を知るのはとても困難です。しかし、だからといって発信者が特定できないままになれば、誹謗中傷を受けた被害者が、その責任を追求することができなくなってしまいます。

そのため、プロバイダ責任制限法では「発信者情報開示請求」という権利を定め、誹謗中傷の被害者に対して、加害者である発信者の特定を可能とする手段を規定しています。ここでは、発信者情報開示請求を行うための要件や方法、流れなどについて説明していきましょう。

 

発信者情報開示請求とは?


先に、「匿名」で発信された情報は、発信者を特定するのが難しいと書きましたが、それはユーザーの側から見た場合の話。サイト管理者やアクセスプロバイダ(インターネットへの接続サービスを提供している会社)の側には、発信者につながる情報が保管されています。そして、その情報を開示してもらえれば、発信者が誰なのかを特定できる可能性があります。このように、サイト管理者やアクセスプロバイダに対して、発信者情報の開示を請求することを「発信者情報開示請求」と呼び、その権利はプロバイダ責任制限法4条1項に規定されています。

なお、発信者情報開示請求は、発信者を特定する手続きであり、書き込みを削除するものではありません。「ネガティブな書き込みを削除したい」という場合は、別途「削除依頼」という手続きが必要になります。


削除依頼に関する記事はこちらから

 

発信者情報開示請求できるのは、どのような書き込み?


発信者情報開示請求の対象となるのは、権利侵害が明らかな場合です。下に、「権利侵害が明らかであると認められる場合」の一例を示しておくので、参考にしてください。

 

権利 権利侵害が明らかであると認められる例
名誉権 社会的な信用・評価を下げるような書き込みがなされ、なおかつ、その書き込みが下記の3つを疑わせる事情がないこと。

①公共の利害に関する事実に関わること
②もっぱら公益を図る目的であること
③書き込まれた事実が真実であること

プライバシー権 個人情報や私生活の情報を暴露する書き込みがなされ、なおかつ、その書き込みが下記の2つを疑わせる事情がないこと。

①私生活上の事実であること
②公開を正当化される事情がないこと

※なお、会社などの法人には、プライバシー権が認められないのが一般的です。

肖像権 撮影や公開を許可していない写真や動画が公開され、なおかつ、その公開が下記の2つを疑わせる事情がないこと。

①私生活上の事実であること
②公開を正当化される事情がないこと

発信者情報開示請求の手続きの流れは?


発信者情報開示請求の手続きをする際は、少なくとも、1.サイト管理者への情報開示請求、 2.アクセスプロバイダへの情報開示請求という2段階の手順を踏むことになります。

「最初からアクセスプロバイダに情報開示請求をしたほうが、話が早いのではないか?」と思われるかもしれませんが、インターネットの仕組み上、これは難しいといわざるをえません。たとえば、ある掲示板に誹謗中傷が書かれた場合、掲示板に書き込みをした人物(発信者)は、発信者が契約しているアクセスプロバイダに接続し、次に、掲示板が契約しているプロバイダに接続することで、掲示板への書き込みが可能となります。

アクセスプロバイダは通常、契約者の氏名や住所を把握していますが、掲示板に書き込んだ発信者がどのアクセスプロバイダと契約しているかは、ほかのユーザーにはわかりません。したがって、まずは掲示板のサイト管理者に対して発信者の情報(IPアドレスなど)を開示してもらう必要があります。結果として、まずはサイト管理者への情報開示請求、次にアクセスプロバイダへの情報開示請求という手順が必要となるのです。

 

  1. サイト管理者に対して発信者情報開示請求を行う

前述の通り、最初に書き込みがあったサイトの管理者に、発信者の情報を開示してもらいます。ただし、サイト管理者が持っているのは、サーバにアクセスされた履歴やサイトを利用する際に登録したメールアドレス、パスワードだけなので、ここではサーバにアクセスされた履歴、つまりIPアドレスやタイムスタンプ(データを作成、更新した日時を証明するもの)などの情報の開示を求めることになります。

情報開示の請求方法には、裁判を使わない方法と裁判を使う方法があり、裁判を使わない方法では、一般的にテレコムサービス協会の「発信者情報開示請求書」という書式が使われます。この場合、書類をサイト管理者に送ることで開示請求がスタートします。

発信者情報開示請求書を受け取ったサイト管理者は、発信者に発信者情報開示請求書が届いたことを連絡し、開示に同意するか否かを2週間以内に聞き取らなくてはなりません。そして、発信者が同意すれば情報を開示、同意しなければ情報を開示しないとなります。

一方、裁判を使う方法では、仮処分という手続きを使います。仮処分というのは裁判の一種ですが、通常の裁判よりも迅速な手続きで行われ、裁判所が申し立てにおおむね間違いがないと判断した場合は、一定額の担保金を供託することを条件に申し立てが認められます(担保金が用意できなければ、決定が発令されることはなく、供託した担保金は一定の手続きを行うことで返還されます)。

通常の裁判の場合、数カ月から1年以上の時間がかかるケースが多いのですが、この手続きでは、一応こちらの主張が確からしいとなれば申立てが認められるので、1〜2カ月で結論が出るのが特徴です。

仮処分申立書を受け取ったサイト管理者は、発信者情報開示請求書と同様に、発信者に連絡を取り、開示に同意するか否かを2週間以内に聞き取らなくてはなりません。そして、発信者が同意すれば情報を開示、同意しなければ情報を開示しないとなります。しかしながら、裁判所から「仮に開示せよ」という仮処分決定が出れば、発信者の同意が得られなくても、多くのサイト管理者は開示に応じてくれます。

なお、発信者情報開示請求仮処分は、原則としてサイト管理者の所在地を管轄する地方裁判所のみが管轄裁判所となります。ただし、Twitter、Facebook、Googleなどに対して発信者情報開示請求を行う場合、相手方となるのは海外法人であるため(日本法人は日本におけるプロモーションを行っているだけで、サービスの提供主体は海外法人だからです)、最高裁判所規則により東京地方裁判所が管轄裁判所となります。

仮処分の申し立てが認められるには、次の2つの要件を満たす必要があります。

①インターネットの誹謗中傷によって、人格権(名誉権やプライバシー権など)や著作権に基づく権利侵害が明らかであること

②権利侵害が明らかであり、すぐにでも保全しないと権利の回復ができない状況にあること(すぐに消去させないと拡散の可能性があるなど)

 

  1. アクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求を行う

サイト管理者からIPアドレスなどの情報開示を受けると、アクセスプロバイダが特定できるため、次はアクセスプロバイダに対して情報の開示を求めます。アクセスプロバイダには、IPアドレスと結びついた契約者情報が保管されているため、ここで情報が開示されれば、匿名だった発信者の身元が明らかになるわけです。

ただし、アクセスプロバイダによっては、発信者情報開示請求の審議状況に関係なく、一定期間が経過するとログ(データ通信の履歴や情報の記録)を削除してしまうところもあります。そのため、この段階ではアクセスプロバイダに審議の結果が出るまでログを保存しておくように請求する必要があります。なお、アクセスプロバイダがログを保存している期間は、おおむね3~6カ月程度と考えてください。

ログの保存請求に関しては、多くのアクセスプロバイダが裁判を経なくても応じてくれるため、アクセスプロバイダに保存してもらいたい情報を指定し、そのログを保存するよう依頼するという流れが一般的です。書類の書式は任意でかまいません。

ログの保存ができた後は、発信者の情報開示請求を行います。情報開示請求の方法は、サイト管理者への開示請求と同様、裁判を使わない方法と裁判を使う方法があり、裁判を使わない方法では、テレコムサービス協会の「発信者情報開示請求書」を用います。ただし、発信者に関する情報は個人情報にあたり、また通信の秘密に関するものでもあるため、この書式で請求しても、アクセスプロバイダが情報の開示に応じることはまずありません。そのため、アクセスプロバイダにプロバイダ契約者の情報を開示してもらう場合は、裁判所に発信者情報開示請求訴訟を行うケースがほとんどです。

ちなみに、アクセスプロバイダに対する開示請求が、仮処分ではなく通常の訴訟になるのは、ログ保全により投稿者の情報保全ができる以上、急いで開示を認める必要がないとみなされるからです。なお、この裁判の管轄は、原則としてアクセスプロバイダの所在地を管轄する地方裁判所のみとなります。

以上が、発信者情報開示請求のおおまかな流れとなりますが、下にここまでをまとめた図も掲載しておきますので、ぜひ参考にしてください。

 

発信者情報開示請求に必要なものは?


発信者情報開示請求をする場合は、どこにどのような書き込みがあるのかを示す必要があります。そのためには、問題の書き込みがされているサイトの保存が不可欠。もし、書き込みが消されてしまうと、内容の確認ができなくなるため開示請求が認められなくなってしまうからです。次の2点に注意しながら、証拠を保存しておくようにしましょう。

 

①問題のサイトのURLがスクリーンショット(キャプチャ)画像などから明確にわかること

②問題の書き込みがスクリーンショット(キャプチャ)画像などからきちんと確認できること

 

保存の方法は、PCで印刷するほか、スクリーンショット(キャプチャ)でも問題ありません。スクリーンショットの場合は、Windowsのパソコンであれば、Alt+PrtScr(Print Screenと表示されていることもあります)。Macであれば、Command+Shift+3で保存できるので、いずれの場合もURLが明確に表示されているようにしてください。スマートフォンにもスクリーンショット機能があるものが多いですが、スマートフォンのスクリーンショットではURLがうまく表示されない場合もあるので、注意しましょう。

 

発信者情報開示請求は自分でやれる?


発信者情報の開示請求を自分で行うことは可能です。ただ前述した通り、アクセスプロバイダが任意で情報を開示してくれることはほとんどなく、開示請求には裁判での対応が必要になります(サイト管理者が任意の開示請求に応じないこともよくあります)。また、アクセスプロバイダが保管しているログの保存期間は3~6カ月程度であるため、書き込みから時間が経ちすぎると、特定が難しくなってしまいます。

以上のことから、法律の専門知識がある弁護士に依頼して、できるだけスピーディに進めるのが得策でしょう。

 

発信者情報開示請求訴訟には、どのくらいの期間と費用がかかる?


裁判所に訴状を提出すると、訴状審査というものが行われますが、通常はこれに3〜7日かかります。訴状審査を通ると、被告(発信者)に対して訴状の送達が行われ、その時点から約1カ月後に第一回目の裁判が開かれます。その後は約1カ月ごとに裁判が開かれ、合計2〜3回行われるケースが一般的です。

費用は、弁護士によって、また量や対象によっても変わってくるためあくまで目安となりますが、25万〜40万円とお考えください。

 

発信者を特定できた後の法的手段は?


書き込みを行った人物を特定するのは「責任を追求するため」なので(中には、特定自体を目的とするケースもありますが)、発信者情報の開示を受けた後は、法的措置によって問題の解決を目指していきます。責任追及の方法は、大きくわけて2つ。民事責任の追及と刑事責任の追及です。

  1. 民事責任の追及

損害賠償(慰謝料)の請求などがこれにあたります。損害賠償を請求する方法としては、内容証明郵便などによる裁判外の手続きと、損害賠償訴訟という裁判上の手続きがあります。

内容証明郵便とは、誰が、誰宛に、いつ、どのような形で手紙を出したのかを、日本郵便株式会社が公的に証明してくれる郵便のことで、記録が明確に残るため、何かを請求する際によく使われます。ただし、それ自体に強制力はなく、送っても無視される可能性があります。

請求を無視された場合は、相手方に対して、名誉毀損、プライバシー侵害などによる損害賠償請求訴訟を提起することになりますが、内容証明郵便は使わず、はじめから訴訟提起をしても問題ありません。訴訟を提起した後は、加害者が損害賠償の支払いに素直に応じれば示談、応じない場合は裁判を通じての請求になるでしょう。

賠償額は、おおむね100万円が上限という印象です。なお、相手の特定にかかった費用には、全額とは限らないものの相手の負担にできる場合も。たとえば、弁護士に依頼して発信者情報開示請求を行った場合、その弁護士費用が損害として認められます。とはいえ、相手が裁判で反論してくるケースもあれば、相手の金銭的な事情で払われないこともありますので、「必ず賠償してもらえるわけではない」ということも覚えておいてください。

  1. 刑事責任の追及

書き込んだ人物に刑事罰を与えるため、名誉毀損罪などで立件してもらうことを指します。刑事責任を追及するのは国の仕事であるため、この場合は警察や検察に告訴状、被害届などを提出することになります。

刑事告訴をした場合、警察が自宅の捜索や取り調べといった捜査を行い、検察が起訴するかどうかを判断しますが、前科前歴がない限りは、よくて略式起訴、多くのケースでは起訴猶予(犯罪が成立しているだろうといえるものの諸般の事情を考慮して起訴をしないという判断)となることが多いでしょう。とはいえ、あくまで起訴が「猶予されているだけ」なので、同じ過ちを犯さないための抑止力にはなるはずです。

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Profile
清水陽平
法律事務所アルシエン代表
2007 年弁護士登録、2010 月11 月法律事務所アルシエンを開設。ネット中傷の削除、投稿者の特定、ネット炎上に関する案件の取扱いが多く、同分野の弁護士向け講師として招かれることも。総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっており、著書に「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル」などがある。

 

2020.11.13

■ネット中傷への対処方法にはどんなものがある?

一昔前までは、「ネットに書かれたことは消せない、無視するしかない」と言われることが多くありましたが、それは正しくありません。ネットの書き込みは適切な手順を踏めば削除できる可能性があります。また、ネットには「匿名性」があるともいわれますが、プロバイダ責任制限法と呼ばれる法律を活用すれば、誹謗中傷を書き込んだ人物を特定することも不可能ではありません。

では、具体的にどうすればいいのでしょうか? まずは、書き込みを消すための「削除依頼」と、書き込みした人物を特定するための「開示請求」について、説明しましょう。

 

  • 書き込みを消す「削除依頼」

インターネット上に自身の権利を侵害するような情報(プライバシー侵害、名誉毀損など)があった場合には、本人もしくは代理人からサイト管理者やホスティングプロバイダ(データを保管している会社)などに対して削除の依頼をすることが可能です。この手続きは、プロバイダ責任制限法のガイドラインにも定められており、「削除依頼」あるいは「送信防止措置依頼」と呼ばれます。ちなみに、削除依頼の主な対応パターンは次の3つとなります。

 

  1. オンラインフォームなどからの削除依頼
    サイトの中には、オンラインフォーム、メールフォームを準備していたり、クリックするとメールソフトが立ち上がるようになっていたりするものがありますが、その場合はオンラインフォーム、メールフォームなどから削除依頼をすることができます。

 

  1. テレコムサービス協会の書式による削除依頼
    テレコムサービス協会とは、情報通信に関わるインターネットサービスプロバイダ、ケーブルテレビ会社、回線事業者、コンテンツプロバイダ、ホスティングプロバイダなどの幅広い事業者が会員となっている一般社団法人です。活動の一つとして、プロバイダ責任制限法関係のガイドラインの作成・公表を行っており、そのガイドラインに従ってサイトの管理者やプロバイダに削除依頼(送信防止措置依頼)をする方法もあります。サイトの管理者やホスティングプロバイダは、書類を受け取った後に、書き込みをした人物(発信者)に対して書き込みの削除の可否を尋ねますが、7日間以内に反論がなければ書き込みが削除されるという流れが一般的です。

 

  1. 裁判(仮処分)での削除命令
    削除依頼をしても削除に応じてもらえない場合、削除仮処分という裁判手続きを検討するのも一つの方法です。仮処分というのは裁判の一種ですが、通常の裁判よりも迅速な手続きで行われ、裁判所が申し立てにおおむね間違いがないと判断した場合は、一定額の担保金を供託することを条件に申し立てが認められます。

通常の裁判では数カ月から1年以上の時間がかかることが多いですが、この手続きでは1〜2カ月で結論が出ます。ただし、裁判手続きである以上、法律に基づいた主張やそれを裏付ける証拠の提出も必要となるため、誰でも簡単にできるというわけではありません。

 

  • 書き込みした人物を特定する「開示請求」

前述したように、ネットには「匿名性」があるといわれますが、ユーザーの側から見た場合は匿名でも、サイト管理者やインターネットサービスプロバイダ(インターネットへの接続サービスを提供している会社)の側には、投稿者につながる情報が保管されています。その情報を開示してもらうことで発信者が誰なのかを特定できる可能性があります。このように、サイト管理者やインターネットサービスプロバイダに対して、発信者情報の開示を請求することを「発信者情報開示請求」と呼び、その権利はプロバイダ責任制限法4条に規定されています。

なお、発信者情報開示請求では、サイト管理者とインターネットサービスプロバイダのそれぞれに開示を求める必要があります。

 

  1. サイト管理者に対して発信者情報開示請求を行う
    まず、サイト管理者に対して発信者情報開示請求を行いますが、サイト管理者が持っているのは、サーバにアクセスされた履歴やサイトを利用する際に登録したメールアドレス、パスワードだけです。したがって、ここではサーバにアクセスされた履歴、つまりIPアドレスやタイムスタンプといった情報の開示を求めることになります。削除依頼と同様、テレコムサービス協会のサイトには発信者情報開示請求書という書式が用意されているので、そちらを活用することも可能です。

 

  1. インターネットサービスプロバイダに対して発信者情報開示請求を行う
    サイト管理者からIPアドレスなどの情報開示を受けると、インターネットサービスプロバイダが特定できるので、次はインターネットサービスプロバイダに対して情報の開示を求めます。インターネットサービスプロバイダには、IPアドレスと結びついた契約者情報が保管されているため、ここで情報が開示されれば、匿名だった発信者の身元が明らかになるわけです。

 

ただし、発信者に関する情報は個人情報にあたり、また、通信の秘密に関するものでもあるため、サイト管理者、インターネットサービスプロバイダとも、任意に情報の開示に応じることはまずありません。そのため、①サイト管理者がIPアドレスの開示に応じてくれない場合は、裁判所に仮処分の申し立てを行い、②インターネットサービスプロバイダにプロバイダ契約者の情報を開示してもらう場合は、裁判所に発信者情報開示請求訴訟を行う、といった手順が必要になるケースがほとんどです。

■削除依頼や情報開示が認められるために必要なことは?

削除依頼や開示請求の対象となるのは、具体的な権利侵害(名誉権の侵害、プライバシー権の侵害、肖像権の侵害など)がある場合です。

「A社」や「Bさん」のように、名称を伏せ字やイニシャルなどにすれば権利侵害にならないともいわれることはありますが、ペンネームやビジネスネーム、源氏名であっても、「その人」だと認識できれば、削除依頼や開示請求が認められます。

 

 

■対処する際は、弁護士に相談したほうがいい? また、そのメリットは?

削除依頼も発信者情報の開示請求も、自分で行うことは可能です。ただ前述した通り、サイト管理者やプロバイダが任意で情報を開示してくれることはほとんどなく、裁判での対応が必要になります。また、インターネットサービスプロバイダが保管しているIPアドレスなどの保存期間は3カ月程度です。書き込みから時間が経ちすぎると、特定が難しくなってしまいます。

以上のことから、法律の専門知識がある弁護士に依頼して、できるだけスピーディに進めるのが得策でしょう。なお、弁護士に依頼することのメリットとしては、次のことが挙げられます。

 

  1. 法的根拠に基づいた素早い対応が可能
    削除申請や情報開示を行う際は、サイトの管理者やインターネットサービスプロバイダに対して、どのような理由で、どのような権利侵害にあたるかなどを正確に伝える必要があります。弁護士を介してのやりとりであれば、法的根拠を示しながら削除依頼ができるため、早期解決の可能性が高まります。

 

  1. 複雑かつ面倒な手続きを任せられる
    仮処分申請をしたり、訴訟を起こしたりといったように、法的手段によって問題を解決していくケースが多いため、自分一人で対処するにはかなりの時間と労力を要します。それを考えれば、裁判所、警察署などへの複雑な手続きを任せられるのは、大きなメリットといえるでしょう。

 

  1. 何ができて、何ができないかの判断ができる
    ネット中傷に対応する際の目的は、①削除を求めたい、②投稿者を突き止めたい、③投稿者に損害賠償請求したいという3つにわけられますが、「自分のケースはどの方法をとるのがいいか」「投稿者を特定できそうか」「どのくらい時間がかかりそうか」などを自分で理解・判断するのは難しいものです。弁護士に依頼・相談することで、それらが把握できるようになることも、メリットの一つといえるのではないでしょうか。

 

 

■相談する場合、前もって準備しておくことは?

 特別なことは必要ありませんが、「どこに何が書かれているのか」をしっかり伝えられる準備はしておいてください。その際、該当ページのURLを用意しておくと、弁護士が被害状況を判断しやすくなるので、対応がスムーズになるでしょう。

なお、SNSで誹謗中傷があった場合、アカウント自体を消してしまう方もいますが、それをやってしまうと、被害状況が確認できないだけでなく、証拠がなくなってしまいます。「早く削除したい」という気持ちはわかりますが、必ず削除する前に相談するようにしてください。

証拠を残す場合は、PCで印刷するほか、スクリーンショットを撮る場合は、Windowsのパソコンであれば、Alt+PrtScr(Print Screenと表示されていることもあります)。Macであれば、Command+Shift+3で保存できます。いずれの場合も、URLが明確に表示されているようにしてください。スマートフォンにもスクリーンショット機能があるものが多いですが、スマートフォンのスクリーンショットではURLがうまく表示されない場合もあるので、注意しましょう。

 

■相談から解決までのおおまかな流れは?

おおまかな流れは、次のようになります(②と③は並行して進む場合がほとんどです)。

①法律相談で状況を伝えて、解決策を探る
②弁護士からサイト管理者への削除依頼を行う
③発信者情報開示請求を行い、加害者を特定する
④法的措置をとる

①〜③についての詳細はすでに説明した通りなので、ここでは④について説明していきましょう。

書き込みを行った人物を特定するのは「責任を追求するため」なので(中には、特定自体を目的とするケースもありますが)、③で発信者情報の開示を受けた後は、法的措置によって問題の解決を目指していきます。責任追及の方法は、大きくわけて2つ。民事責任の追及と刑事責任の追及です。

 

  1. 民事責任の追及
    損害賠償(慰謝料)の請求などがこれにあたります。損害賠償を請求する方法としては、内容証明郵便などによる裁判外の手続きと、損害賠償訴訟という裁判上の手続きがあります。加害者が損害賠償の支払いに素直に応じるなら示談、応じない場合は裁判を通じての請求になるでしょう。

 

  1. 刑事責任の追及
    書き込んだ人物に刑事罰を与えるため、名誉毀損罪などで立件してもらうことを指します。刑事責任を追及するのは国の仕事であるため、この場合は警察や検察に告訴状、被害届などを提出することになります。

 

■損害賠償請求が認められた場合、どのくらい賠償してもらえる?

これまでのネット誹謗中傷案件をみてみると、裁判で認められる損害賠償額は、おおむね100万円が上限という印象です。ただし、相手の特定にかかった費用については、相手の負担にできる場合も。たとえば、弁護士に依頼して発信者情報開示請求を行った場合、その弁護士費用が損害として認められます。

とはいえ、相手を特定できれば必ず賠償してもらえるというわけではありません。裁判で反論してくるケースもあれば、相手の金銭的な事情で払われないこともありますので、その点についても覚えておいてください。

 

■弁護士への依頼費用のだいたいの相場は?

弁護士への依頼費用は、依頼先や被害の内容、サイトによって変わってきます。下に紹介した金額は、弁護士によって、また量や対象によっても変わってくるためあくまで目安と考えてください。

削除依頼の代行(裁判外)    : 1~10万円
裁判(仮処分)の申し立て    :25万〜40万円
契約者情報開示請求                :25万〜40万円
損害賠償(民事訴訟)の請求 :20万円程度


弁護士への依頼は敷居が高いと思われがちですが、中には無料相談を受け付けているところもたくさんあります。そして、相談することでネット中傷が解決できる可能性も、決して低くはありません。まずは自分が置かれている被害の状況を相談するところからはじめてみてはいかがでしょうか。
 

 

ネット中傷解決くん」で弁護士を探す。

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Profile
清水陽平
法律事務所アルシエン代表
2007 年弁護士登録、2010 月11 月法律事務所アルシエンを開設。ネット中傷の削除、投稿者の特定、ネット炎上に関する案件の取扱いが多く、同分野の弁護士向け講師として招かれることも。総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっており、著書に「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル」などがある

2020.11.11

ネット中傷解決くん編集部が、相談のネット中傷トラブルの問題になりやすい事例を作成し、ネット中傷問題に詳しい弁護士に対処方法のインタビューを行い、記事にまとめました。

<教えてくれる人>
清水陽平先生(法律事務所アルシエン)

 

【事例】
東京都在住の山田陽子さん(32歳)は、都内のスーパーマーケット「青葉マート」でレジ打ちのパートを始めました。研修中でまだ作業に慣れない中、一生懸命業務に当たっていましたが、客としてやってきた50代の女性に「レジ打ちが遅い」「このご時世に、お釣りを手渡しするなんて失礼」と様々なクレームを入れられました。

最初は我慢していた山田さんでしたが、あまりにクレームが長かったため、つい小さく舌打ちをしてしまい、それを聞いた女性は激昂。山田さんは平謝りをしましたが客の怒りは収まらず、店長の木村浩二さん(45歳)が対応しても怒りがエスカレートするばかり。しまいには「土下座をしろ」と言い出し、山田さんと木村さんが土下座した様子をビデオに録り始めました。

すると同日の夜、山田さんは友人より「あなたがTwitterで攻撃されている」と連絡を受けました(山田さんはTwitterを利用したことがありません)。「mikaチャン.*☆」というアカウントが「青葉マートのパートの山田陽子(32)と店長の木村浩二(45)、客に対して最悪の対応。土下座させた」と画像を添えて投稿。その後も「青葉マートのパートの山田陽子と店長の木村浩二は不倫している」「山田陽子の子供は東小学校2年生。盗癖があっていつもいじめられている」など事実無根の投稿を次々と投稿し、山田さんとその家族は、周囲から冷たい目で見られるようになりました。

山田さんは、なんとかして「mikaチャン.*☆」の身元を特定し、投稿を削除させたうえで、事実無根の投稿に対する法的措置がとれないかと考えています。

 

 

【対処方法】
■対応のポイントとなるのは?

はじめに、山田陽子さんが上記の事例に対応する際、どのような点がポイントになるかを見てみましょう。

山田さんが目的としているのは、①投稿の削除、②投稿者の特定、③投稿者への損害賠償請求の3点。このうち、他者の投稿に対する「削除依頼」と、投稿者を特定するための「発信者情報開示請求」については、依頼者の権利が侵害されていることが必要になります。このケースの場合、山田さんは不倫をしているという事実無根の内容が書かれているため名誉権を侵害されていると考えることができ、削除依頼、発信者情報開示請求ともに行うことができます。

また、名誉毀損罪にあたる余地もあり、刑事事件として告訴する余地もあります。

 

■Twitterの投稿を削除する

誹謗中傷に関連する投稿の削除依頼を行うとともに、「mikaチャン.*☆」というアカウントの持ち主を特定するためには、まずアメリカのカリフォルニア州に本社を置くTwitter Inc.に対してアクションを起こす必要があります(日本法人は日本でのプロモーション活動を行う目的で設置されており、投稿に関する管理権がないため法的対応ができません)。

なお、削除依頼、発信者情報開示請求を行う際のおおまかな流れは、次の通りです。

<削除請求>
①お住まいの都道府県の地方裁判所に、Twitter Inc.に対する「仮処分」という裁判手続の申立てを行います。

②申立て内容が一応認める余地があるとなれば、Twitter Inc.を呼び出して審理を行うことになります。この際、Twitter Inc.からの反論も踏まえても、削除が相当であると裁判所が判断すれば、「仮処分決定」が発令されることになります。仮処分決定が発令されれば、Twitter Inc.が「mikaチャン.*☆」の投稿の中から、誹謗中傷に関する投稿を削除してくれます。 

<発信者情報開示請求>
①東京地方裁判所に、Twitter Inc.に対する発信者情報の開示を求める「仮処分」という裁判手続の申立てを行い、投稿者のIPアドレスとタイムスタンプ(サーバ接続時間)の開示請求を行います。

②申立て内容が一応認める余地があるとなれば、Twitter Inc.を呼び出して審理を行うことになります。この際、Twitter Inc.からの反論も踏まえても、削除が相当であると裁判所が判断すれば、「仮処分決定」が発令されることになります。仮処分決定が発令されれば、2〜3週間程度でTwitter Inc.から「mikaチャン.*☆」のIPアドレスとタイムスタンプが開示されます。

この事例では、山田さんのお住まいが東京都であるため、情報開示請求、削除依頼ともに東京地裁に申し立てることができました。しかし、東京以外の道府県にお住まいの方の場合は、削除依頼は在住する道府県の地方裁判所に申し立てを行い、開示請求は東京地方裁判所に申し立てを行うことが必要になるため、ご注意ください。

 

■投稿者の個人情報を手に入れる

IPアドレスが開示されると、インターネットサービスプロバイダ(インターネットに接続するためのサービスを提供する会社)が特定できるので、該当するインターネットサービスプロバイダに対して「mikaチャン.*☆」の情報開示請求を行います。

ただし残念ながら、通信から特定される情報は通信の秘密に該当する情報であり、安易に開示すると犯罪行為になってしまうため、発信者の同意がある場合を除き、インターネットサービスプロバイダが任意に開示に応じることはほぼありません。そのため、多くの場合は裁判所を通じて発信者情報開示請求訴訟を行い、裁判所からの命令という形で情報開示に対応してもらうことになります。

裁判にかかる日程は内容によってまちまちですが、こちらの訴えから裁判に入るまでに約2ヵ月、判決が出るまでに約5ヵ月かかると想定していただければと思います。

■法的措置によって問題の解決を目指す

投稿者が特定できた後は、法的措置によって問題の解決を目指します。責任追及の方法は、大きくわけて2つあります。民事責任の追及と刑事責任の追及です。この事例における名誉毀損は民事責任と刑事責任の両方から追求することが可能なので、それぞれの手続きや賠償額などについて解説していきましょう。

<民事責任の追及>
民事での名誉毀損は、民法で規定された「他人の権利や利益などを侵害する行為」に適用され、損害賠償を請求することができます。

損害賠償を請求する方法としては、内容証明郵便などによる裁判外の手続きと、損害賠償訴訟という裁判上の手続きがありますが、加害者が損害賠償の支払いに素直に応じるなら示談、応じない場合は裁判を通じて請求するというのが一般的な流れです。なお、裁判を起こした場合は、判決までに3ヵ月から半年ほどの時間がかかると考えておいてください。

請求額はこちらで自由に決めることができますが、相手の支払い能力なども考慮されるため、慰謝料が3〜60万円、調査費用と弁護士費用を合わせて、だいたい60〜100万円弱に落ち着くことが多いです。

<刑事責任の追及>
この事例を刑法に照らし合わせると、刑法第230条1項に規定された「故意に公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」にあたります。

この場合は、警察や検察に告訴状、被害届などを提出することになりますが、告訴状を持って警察署に行ってもすぐに対応してもらえないなど、時間と手間がかかる作業になるため、手続きについては弁護士に依頼することをおすすめします。

もしご自身で対応したいという際は、お住まいの地域を管轄する警察署の刑事課に電話して、「ネットで中傷を受けている。相手の特定はできている」と伝えてください。刑事課の担当者につながり、対応してくれます。

どのくらいのスピードで手続きが進むかについては、警察署の忙しさなどによってまちまちですが、ファーストコンタクトから実際の捜査が始まるまでに、相当のタイムラグが生じることも事実。事件性の有無を慎重に調べる必要があることから、数ヵ月から1年単位で待たされることも少なくはありません。

捜査の末、「mikaチャン.*☆」が起訴される場合、名誉毀損罪の法定刑は3年以下の懲役、もしくは禁錮または50万円以下の罰金刑となっていますが、初犯の場合は起訴猶予になることが多く、起訴されるとしても略式起訴(=罰金刑)になる可能性が高いでしょう。

■かかる費用はどれくらいになるのか?

ここまでで紹介したことのすべてを弁護士に依頼した場合、総額でかかる費用は100万円強になると想定されます。

内訳を紹介すると、まずTwitterとプロバイダに対する開示請求がそれぞれ35〜40万円。Twitterの場合、海外であるためどうしても費用が高額になってしまいますが(FacebookやInstagram、Googleも同様です)、国内企業が運営するサイトやサービスであれば、もう少し費用を抑えることはできます。これに加えて、損害賠償請求や刑事告訴にかかる手続き費用は、着手金だけで各20万円ほどかかります。

ただし、弁護士によって値段設定は異なるので、ここで紹介した数字はあくまで参考程度にとどめていただければと思います。

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〈取材を終えて〉
このように、ネット中傷に関わる実際の手続きには時間もお金もかかりますが、だからといって深刻な状況をそのままにしておくわけにもいきません。弁護士事務所の中には無料相談を実施しているところもたくさんありますので、「なにはともあれ相談」からはじめてみるのもいいのではないでしょうか。

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Profile
清水陽平(しみず・ようへい)
2007 年弁護士登録、2010 月11 月法律事務所アルシエンを開設。インターネットにおける誹謗中傷や炎上への対応を得意分野としており、ツイッターとフェイスブックに対し、それぞれ日本初となる事案を担当した。総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっており、著書に「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル(弘文堂)」などがある。